ビジネスの世界には、説得力あるストーリーを語るストーリーテラーと、有意義なモデルや会計数字を作り出す計算屋とが存在する。事業を成功させるにはどちらも欠かせない存在ではあるが、両者が組み合わさることで事業は大きな価値を生み出し、維持することができるのだとダモダランは主張する。
本書ではさまざまなケーススタディを通じて、どのようにすればストーリーテラーが数字を見事に語り、また計算屋が綿密な調査にも耐え得る、より想像力に富んだモデルを構築できるかを記している。ダモダランはウーバーの登場を検証し、ストーリーがバリュエーションに違いが生まれる理由を理解する鍵となることを論じている。
ツイッターやフェイスブックはなぜIPO(新規株式公開)で何十億ドルもの価値が付いたのか、またひとつ(ツイッター)は停滞し、もうひとつ(フェイスブック)は成長を続けるのはなぜかを検証している。また、ダモダランはアップルやアマゾンなど、より確立されたビジネスモデルにも目を向け、企業の歴史がストーリーを強化も制限もすることを示している。また、ブラジルの世界的鉱山会社であるヴァーレの例を通じて、外部のストーリーの影響、国家やコモディティならびに通貨がどのように企業のストーリーを形づくるかを示してもいる。本書は数字をめぐるストーリーの効果や問題点、そして危険性を明らかにするとともに、どうすればストーリーの妥当性を評価することができるのかを伝えるものである。
「ダモダランは、ジョセフ・キャンベル、ウォーレン・バフェット、ナシーム・タレブのような最高のクオンツアナリストが交わる場所へとわれわれを誘ってくれる。彼の取り組みは、ストーリーテリングまたは数字遊びのどちらかだけに依拠することで自らのバイアスに陥っているアナリストたちが見逃している、新たな価値やリスクを明らかにしてくれる。ダモダランは、アリババ、アマゾン、ウーバー、テラノス、フェラーリなどのストーリーや分析、バリュエーションをわれわれに伝えてくる。彼はクオンツとして、そのキャリアをスタートさせたのかもしれないが、今やもっともバランスの取れたアナリストの1人であり、ビジネスと金融の素晴らしいストーリーテラーであり、作家であり、指導者である」――デビッド・フォスター(ビジネス・バリュエーション・リソーシズCEO)
一般に企業価値評価には、バランスシートを精査して数字を積み上げていく方法、同業種の企業との比較に基づいた算出法、そして将来における収益のフローを現在価値に割り引くDCF法などがある。独創的なビジネスを手掛ける成長株の場合には、その価値評価は前二者にはなじまないことから、主として3番目の方法がとられることになる。そこでは、評価対象となる企業やそれを取り巻く環境の未来についての予測が伴うが、将来は常に不確実であり、キャッシュフローは想定するストーリーによって大きく変わってしまう。(続きを読む)
中原圭介/岡村友哉 横浜タイガ出版
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