私のトレーディング手法やトレーディング哲学はジョージ・ダグラス・テイラーが考案した短期売買技術を基礎にしたものが多い。そのため私は短期売買の参考書として彼の著書『ザ・テイラー・トレーディング・テクニック』を読むことを多くの人に勧めてきた。まず、第15章の「アドバイス」を2〜3回じっくりと読むこと。そうすれば、テイラーの言おうとしている主題を理解するうえで役立つと思う。――“マーケットの魔術師”のリンダ・ブラッドフォード・ラシュキ(『魔術師リンダ・ラリーの短期売買入門』の著者)
1950年代、シカゴ商品取引所の穀物トレーダーが「場帳による手法(ブックメソッド)」という手引書を出版した。そのトレーダーこそが、本書の著者であり、今や伝説となっているジョージ・ダグラス・テイラー、その人である。テイラーは、穀物市場が3日サイクル(「買いの日」「売りの日」「空売りの日)で動き、そのサイクルは価格の上昇と下落を測定することで追跡可能だという確信を基に、穀物価格の個々の上下動を克明に記録し、その場帳(ブック)を常に持っていた。彼の手法のネーミングはこのブック(場帳)に由来する。穀物価格の上下動を場帳に記入するだけというこの単純な手法が現代の市場でも十分通用することは驚くべきことである。――ジョージ・エンジェル(『ウィニング・イン・ザ・フューチャーズ・マーケット』の著者)
テイラーの手法が画期的だったのは、はじめに価格変動には特定のリズムがあるという見方を取り、立会日を「買いの日」「売りの日」「空売りの日」と3つのパターンに分けたことである。そしてそのリズムを把握するための方法として、独特な場帳の記録方法を用いたのだ。この、チャートに拠らず場帳のみによってマーケットの状況を把握しトレードの意思決定行うというやり方は、著名な相場師の多くが採用している方法でもある。
さて、マーケットにかかわる情報がこれだけ氾濫し、かつリアルタイムの情報が瞬時に世界中を飛び回る現代においても、マーケットの状況を微細に至るまで正確に把握することはだれにもできはしない。つまり、どれだけ優れたトレーダーであっても、状況の把握からトレードの意思決定のプロセスにおいては、かなり大胆なデフォルメがなされていると言ってよいのである。
そのためのツールは、人によっては場帳であったり、チャートであったり、あるいはファンダメンタルズ分析やテクニカル分析であったりするのである。そしてマーケットの状況を正しく把握できるか否かは、そのデフォルメのありようが適切か否かに因る。つまり、各々の分析手法やモデルや道具などが、不必要な情報を排したうえで必要な情報のみを残していれば理想的なのである。
その意味では、テイラーの手法のようにチャートを排し、場帳における特定のパターン認識のみに基づいてトレードを繰り返すというアプローチは、多くのトレーダーにとって迷いの少ない優れた方法といえる。一般に理解されていることとは異なり、判断に利用する情報は多ければ多いほど良いのではない。むしろ十分なだけ少ない必要がある。これは特に初心者と上級者にとっては特にそうである。なぜなら初心者はあまたある雑多な情報のなかで、何が重要で何が重要でないのかの区別がつかない。したがって、その混乱を避けるために情報を絞る必要があるからである。そしてすでにその区別をつけることができる上級者にとっては、情報がはじめから必要なものに限られていることは、迷いを断ち、意思決定を迅速に行うために不可欠な事項である。
本書は裁量トレードにおいて何らかの規範を身につけたい初心者にとって、あるいはすでに一定のトレード経験があるものの多くの情報の処理に戸惑う中級者にとって、共に良い指南書である。多くのトレーダーによって優れていることが実証済みのテーラーの手法を用いることで、読者はマーケットの見方に関して新たな視点を獲得し、トレード技術を飛躍的に向上させることになるだろう。
最後に、本書の出版に当たっては、翻訳者の山下恵美子氏、編集者の阿部達郎氏、パンローリング社の社長である後藤康徳氏に感謝の意を表したい。本書は時間の検証に耐えたトレード手法の優れた解説書であり、日本においても末永く読まれることを願うものである。
2008年7月
長尾慎太郎
このメソッドは市場に対する将来の予測が基本になっている。したがって、例えば、あるトレードについての行動を説明しようと思った場合、近い将来の「動き」も同時に説明しなければならない。
例えば、買いポイント前後の動きを説明する場合、反復説明が多くなるひとつの理由としてはこういった事情が挙げられる。さらに、買いポイント前後の動きを説明するためには、そこに至るまでの動きも説明しなければならない。なぜなら、その動きこそが市場の次なる動きを予測させるためのカギとなるからである。
理論と実践はけっして相反するものではなく、互いを補完しあうものである。理論だけ、あるいは実践だけでは不十分であることは、理論だけ、あるいは実践だけを行ってみればよく分かるはずである。例えば、実践を無視して理論だけ重視すれば、いざ実践の段になると「途方に暮れる」だろう。
理論は分かっていても経験の乏しいトレーダーにとって、このメソッドは実践面での強力な助っ人になり得るものである。一方、これまで運と鋭い観察眼、直感、経験だけを頼りにトレードを行ってきたベテラントレーダーは、本書を通じて若干の理論を身につけることでパフォーマンスの大幅な向上を見込めるはずである。
本書は基本原理に基づく市場予測を基本にしているが、読者は本書に書いてあることを一字一句厳密なルールとして受け入れなければならないわけではない。本書は目標値周辺の動きを長期にわたって観察した結果を基に書かれているため信頼のおけるものではあるが、トレーダーたる者、ひとつの理論にかたくなにこだわってはならない。投機で成功するためには、ひとつのルールにとらわれることなく、状況の変化に応じて変幻自在に自らを変える柔軟性が必要である。しかし、予期したとおりのことが起こったときにどう動けばよいかを知っているトレーダーは、予期しないことが発生したときにもどう動けばよいかが分かるものである。
本書では、あふれんばかりの情報の山から必要な情報だけをかき集めなければならないという労力を読者に強いることがないように、また無駄な時間を使わせることがないように、読者が関心を持ち読者に役立つと思える情報のみをコンパクトにまとめた。
ジョージ・ダグラス・テイラー
●つもり売買の勧め マーケットの「感触」をつかめるようになるまで、10日ほどつもり売買をしてみる。つもり売買で注意しなければならないのは、ありもしない非現実的な妄想にとりつかれないこと、そして、あのときああしていればこうなっていたのにと一喜一憂しながらマーケットが引けたあとで価格を読むようなこともしてはならない、ということである。つもり売買のやり方としては、ノートと鉛筆を持って実際にマーケットに足を運び、本書で述べてきた目標値で売買してみる。そして2〜3週間、つもり売買したら記録をチェックしてみよう。この訓練はセルフコントロールを養い、衝動的な売買を控え、忍耐力を身につけ、買い目標や売り目標周辺で起こり得る値動きを把握するのに役立つだろう。
●シグナルが出る前に市場を先読みするのはやめよ 市場がそのときに与えてくれる利益だけを確実に手にすることが大切だ。このトレンドはまだ続きそうだとか、価格はさらに上昇するはずとか、下落するはずといった自分の考えに惑わされてシグナルを受け入れないでそのままポジションを保持することはしてはならない。自分の思惑どおりになることもあるかもしれないし、確かにそうなることも多い。しかし、プレーをするうえで重要なのは、市場が提供してくれるものを、提供してくれたそのときに受け取るということである。
●目標値は最も近いものだけを見よ そのほかの目標値のことを考える必要はない。例えば、買い目標を探しているのであれば、その近辺における値動きのみに注目せよ。
●自分のプレーに有利なトレードでなければしてはならない その日に自分に有利なトレード機会がひとつも見つからなかった場合、相場は上向くに違いないといった憶測で売買するよりも、その日のトレードはきっぱりとあきらめて、いつ売買すればよいのかを市場が明確に示してくれるまで待つことである。
●最も効果的な練習法は図書館で商品や株式の過去のデータを取得し、そのデータを基に場帳を作成し、そこから動きが反復性を持っていることを認識せよ 場帳から日々の値動きが持つ一定のリズムをとらえる。それだけではない。価格は過去も現在も同じような動きをする。これも場帳が教えてくれる。
●毎日の安値と終値をチェックせよ 終値についてはどこでどのように引けたかに注目する。その日の高値近くで引けたのか、安値近くで引けたのか。その理由は? そしてそこから翌日の値動きを予想する。大きく上方に窓を空けて、または下方に窓を空けて寄り付いたとき、特に10ポイント以上、上方に窓を空けたり、下方に窓を空けて寄り付いたとき、それはトレードをする領域の天井や底になる可能性がある。その場合、寄り付き価格を突破する前後の水準が買い目標や売り目標になることが多い。
●季節性を持った商品市場は上下動が大きく、目標値を大きく突破する このような銘柄ではタイミングよく利食いすれば大きな利益が確保できる。
●いったんトレードを手仕舞いしたら、後ろは振り返るな 最後の1/8までとらえ損なったとしても、売ったあとで価格がさらに上昇しても、買い戻したあとで価格がさらに下落しても、手仕舞ったトレードのことを気にしても始まらない。
●重要な転換点――つまり、目標値――周辺の戦略をしっかり頭にたたきこみ、次のトレードを常に視野にいれてトレードすることが大切である トレードの目的とは、小さくても確実な利益を素早く得ることであることを忘れてはならない。これはフロアトレーダーの目的とまったく同じである。その時点で市場が与えてくれるものを受け取ることが重要だ。市場はこうなるはずという思い込みでポジションを保有し続けてはならない。市場が今行っている方向に従ってトレードすることが重要だ。デイトレードは機会が多すぎるため、気を抜く暇がない。デイトレードに少し疲れを感じたら、気分転換のつもりで一度、3デイメソッドにトライしてみるのもよいだろう。
●場帳は穀物は5〜6銘柄、株式は2〜3銘柄作成し、それぞれの動きを研究せよ 場帳を作成した穀物や株式のなかからトレード対象が1つ決まったら、その場帳だけか、最大で2つの場帳(1つは買い用、もうひとつは空売り用)を持ってマーケットに出向く。穀物も株式もそれぞれに同じような動きをするため、最初のうちは混乱を避けるために観察対象は1つか2つに絞るのがよい。複数の場帳を作成すると、買い対象になるものもあれば、空売り対象になるものもあることに気づくはずだ。買い対象になるものは買い対象として観察し、空売り対象になるものは空売り対象として観察し続ける。これでは矛盾するのではないかと思うかもしれないが、そんなことはない。例えば、あるトレーダーが小麦、トウモロコシ、大豆のうちの2つの穀物を記録した場帳を持っているとしよう(株式についても2つの株式を記録した場帳を持っている)。1つは買い対象、もう1つは空売り対象である。ある日の寄り付き前に、まだ売買していなければ、買い対象と空売り対象の両方の銘柄について前日の価格をチェックし、それぞれに付したシグナルマークからその日のトレンドを予測するだろう。まず上方に窓を空けて寄り付くか、下方に窓を空けて寄り付くかを予測する。上方に窓を空けて寄り付いたら、空売り対象が空売りの日の目標値に達するのを待つ。つまり、売りの日の高値を上抜けるのを待つということである。売りの日の高値を上抜いたら、それをまず空売りする。穀物がこういった動きを見せた場合、買い対象である株式も同じような動きをするはずである。つまり、上昇するということである。一般に、買いの日に前に高値を付けたら、そこから下落するのが普通だ。したがって買い対象の株式はまだ買わずにしばらく動きを見守る。一方、下方に窓を空けて寄り付いた場合は、買い対象である株式が前に安値を付けることになるはずだから、まずは買い対象に注目する。
(ウィザードブックシリーズ141)
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