為替の中心ロンドンで見た。ちょっとニュースな出来事
柳基善
パンローリング
四六判 ソフトカバー 212頁 2005年5月発売
本体 1,200円 税込 1,320円
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ジャーナリスト嶌信彦氏も推薦の一冊。
関係者以外知ることのできない舞台裏とは如何に?
為替の中心といえばロンドンである。そのロンドンで、「テムズの取引所」と呼ばれ
ていた世界トップバンクのひとつに勤めていた著者の話をまとめたものが本書であ
る。同じ銀行の職員でもパスがなければ入ることは許されていないディーリングルーム。関係者以外知ることのできない舞台裏の出来事を、本書ではレポート風に、そして
エッセイとして、面白くわかりやすく紹介している。アジア危機の話の舞台裏、伝説を
作った男たちの生き様、うわさを流して儲ける人の話などは、為替あるいは相場という世界で生きるあなたへ「!」をプレゼントするだろう。
自分たちの知らないところで「何」が行われているのか。ディーリングで生き抜くに
は、そういう情報もきっと役に立つはずだ。
ジャーナリスト 嶌信彦氏の推薦の言葉
国際金融の本はゴマンとあるが、これほどわかりやすく、小説より面白くて読みやす
い本を知らない。人間くさいエピソードが満載で、読み終えたときには金融の本場、
シティとディーラーたちの生き様、そして為替取引の全貌を知るだろう。
はじめに(為替はサッカーと同じ?)
以前、通貨マフィアといわれる人たちの間で、為替に関して面白いジョークが流
行っていた。
天国の門の前でアインシュタインが、後から天国に来る人たちに向かって、彼らの
今後の職業について忠告をした。IQ二〇〇の人にはこれから「あなたは相対性理論
を勉強しなさい」と勧めた。また、IQ一五〇の人には「世界経済の予測」でもしな
さいとアドバイスをしたらしい。そして、IQが六〇しかない人に向かっては、しば
らく考えて「為替相場の予想でもしなさい」と言ったという。
どうも、この話の落ちは、為替の予想は誰がやっても当たらず、どうせ成果が出な
いのだから、そんなことはいっそIQの低い人間たちに任せておけ、というもののよ
うである。
私の経験では、為替ディーラーという人種はオツムより、からだを使う方を得意と
している。彼らは為替という知的ゲームを楽しむというよりは、からだに為替レート
を刻んで、長時間寝ないで、耐えることに喜びを感じる人たちである。
為替ディーラーは、瞬間を競う世界で生きているせいか、ディーリングルームでも
自分たちは特別で、傍若無人に振る舞うことも許されていると勘違いしている。それ
故、為替ディーラーの行儀の悪さは、世界的に共通している。
彼らは、言葉遣いは汚い、悪態はつく、大声を張り上げる、電話は投げる、イスも蹴
飛ばす。そして、品がなく、先輩、後輩の区別もなく、彼らは自分が儲けることしか
考えていないエゴイストたちの集団と化すことがある。
こんなディーラーたちの光景を見たら、IQの高いインテリが、彼らを小馬鹿にし、ジョークのひとつを作っても、これは致し方ないわけである。
外国為替市場はスポーツに例えれば、サッカーに似ている。集団ゲームで、活気が
あり、ルールは単純で、大勝も大負けもなく、フェアー(?)であり、スピード感が
あって、局面がガラリと変化して勝敗が決まることもあるからだ。
為替のディーラーは、風采もサッカー選手に似ていて、私が在籍したロンドンのデ
ィーリングルームでは、体のいかつい、ほぼ丸坊主同様の短髪のお兄ちゃんたちが何
人もいた。ディーラー、サッカー選手とも、お世辞にも外見からして賢い人たちには
見えないところにも共通点がある。それでも、ひとりひとりが個性的な彼らは、チー
ムプレーに長け、仲間を思いやる良さを持っているから救われる。為替も、サッカー
も全世界で行われていて、ルールも単純で、誰もが、いつでも参加できる、飽きない
体力ゲームなのである。
さて、外国為替市場はロンドンが世界の中心である。私が九〇年代後半に五年近く
在籍したロンドンのディーリングルームでは、ヨーロッパ為替市場の一割の取引が行
われており、世界のトップバンクのひとつと言われていた。
ワンフロアーに四五〇人ほどいたディーリングルームの真ん中に、約五〇名の為替
のチームが陣取っていた。そこでは、つかみ合い寸前のトレーダーとセールスたちと
のバトルが繰り広げられ、勝負に負けて大の男が号泣する場面も見られた。ヘッジ
ファンドが荒稼ぎをし、アジアの中央銀行が必死に自国通貨を防衛する局面も見た。ひとりで何百億円もの利益を出した、名うての個人の為替ディーラーにも出会った。その
場では、相場の巨人、日本銀行もその名を轟かせていた。私のいた”そこ“は、世界
のオールスターが勢ぞろいした、外国為替の「テムズの取引所」と呼ばれるにふさわ
しい活気のある舞台であった。
これから、外からはなかなかうかがいい知ることのできない、ロンドンの現場からの
体験的レポートをお届けする。
目次
- 「テムズの取引所」から
- 「伝説」を作る男たち
- ヘッジファンドのオーバーシュート
- 相場は誰に聞けばいいの?
- スキルがすべて
- 市場の愉しみ
- 乾いた市場
- スインギング・ロンドン
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