本書の著者であるデビッド・ウェイスはリチャード・ワイコフのトレードメソッドの権威としても知られ、この分野で40年以上の経験を持つトレーダーであり、マーケットアナリストでもある。ウェイスは、ワイコフの仕事の背景にある原理をいかに利用すればよいのかについてよく理解し、それを駆使して効果的にトレードを行っている。本書は、今日のボラティリティの高い市場で優位に立つためにワイコフのテクニックをどのように応用すればよいかを詳細に分かりやすく示したものだ。
本書のテクニックはワイコフのアプローチをもっと近代的な視点から見たもので、魅力にあふれ、使い方も簡単である。本書ではチャートやウエーブチャートを論理的に解釈し、これから起ころうとしているトレードをどのように見つけるかを提示する。本書のチャート例を学習すれば、市場が市場について語ることを読み取ることができるようになり、いろいろな転換点を見つけることもできるようになるだろう。ページをめくるたびに、あなたの学習速度は速まっていくはずだ。本書のトピックは以下のとおりである。
本書では、ワイコフのオリジナルのテープリーディングツールを、ボラティリティの高い今日の株式市場や先物市場に合わせて改良したものも提示されている。もちろん、改良版も日中の値動きや日々の値動きに適用することが可能である。
ワイコフの分析に関して言えば、チャートを読む世界は白黒はっきりしたものではなく、グレーの世界である。凝り固まったアイデアに執着するよりも、心をオープンにすることが重要である。本書はこの目標を達成するのに役立つはずだ。本書を読めば、成功するトレーダーの感じ方や直感をどのようにして身につければよいのかや、ワイコフのメソッドを今日のダイナミックな市場に合わせて改良する方法も自然と分かるようになるだろう。
「世界で最高の教師の1人で、ワイコフのトレードメソッドの専門家であるという彼の評判がウソでないことは、初めてウェイスに会ったときにすぐに分かった。彼の最大の貢献は、ワイコフのテープリーディングチャートをウェイスウエーブ・インディケーターに転換したことである。チャート上でビッグプレーヤーたちの残した足跡を見つける方法を学びたいトレーダーは、ぜひとも本書を読んでもらいたい。おそらく本書はトレードの古典になるだろう」――ギャビン・ホームズ(トレードガイダー・システムズ・インターナショナルのCEO)
目次
監修者まえがき
序文
謝辞
はじめに
第1章 トレードの見つけ方――概要
第2章 ラインを引く
第2章 ラインを引く
第3章 ラインの話
第4章 チャートを読む論理
第5章 スプリング
第6章 アップスラスト
第7章 吸収
第8章 チャート分析
第9章 テープリーディング――パート1
第10章 テープリーディング――パート2
第11章 ポイント・アンド・フィギュアとレンコチャート(練行足)
監修者まえがき
本書はリチャード・ワイコフのトレードメソッドの権威として知られるデビッド・ウェイスの著した“Trades About to Happen : A Modern Adaptation of the Wyckoff Method”の邦訳である。本書に紹介されている時系列データの分析手法はいにしえのワイコフの研究に端を発するが、こうして現代にあってもなお一〇〇年前の技術を使う人たちが少なからず存在し、解説書まで出版されていることに驚く読者もいるかもしれない。だが、株式における代表的なファンダメンタルズアプローチであるバリュー投資の方法論も、前世紀の初めにベンジャミン・グレアムが提唱してからほとんど変わっていない。金融市場に人間がかかわるかぎり、適した方法論はそれほど簡単には変わらないということなのかもしれない。
ところで、本来投資とは、ビジネスを評価することによって、対象資産の本質的価値を推定し、それを市場価格と対比させて行うものだ。しかし、もともと本質的価値を持たず価値評価ができないトレード対象も数多く存在する。為替や仮想通貨、コモディティなどがそれに当たる。これらはバリューに基づいて投資をすることやクロスセクションでの相対比較による評価をすることはできない。したがって、そうした市場でのトレードでは、時系列情報によるリターンや将来価格の直接的な推定が主たるアプローチになる。テクニカル分析に代表される時系列データを使ったトレード手法はこうして生まれたのである(逆に、時系列データに未来を説明する情報が含まれていない対象や時間枠にテクニカル分析を適用してもまったく無意味である。この識別は非常に重要なので注意を要する)。
さて、テクニカル分析とはある種のデフォルメであり、情報の削減・加工である。ここでもしデータを処理するのが機械(AI)であれば、その操作は必ずしも必要ではない。データをそのまま学習させればよいからだ。しかし、情報の処理装置としてコンピューターに著しく劣る脳を使わざるを得ない人間が、多種・大量の情報に基づいて、限られた時間内に意思決定と行動を行わなければならないならば、事前に何らかの情報の圧縮を行うことは避けられない。ここで残された問題は、その過程でノイズが減らされ、かつ意味のある情報が残されているかどうかである。本書にあるような、先達が長年にわたって使用し選択されてきたものを知ることは、このアプローチを試みる人にとってよい出発点になり得る。本書を読まれる際には、一つ一つの技について、情報処理の観点からそれが何を捨て何を残しているのかを考察してみるとよいだろう。(続きを読む)
序文
アレキサンダー・エルダー
「池に魚釣りに行ったとき、ボートを池の真ん中に漕ぎ出して、そこで釣り糸を投げ込む人はいないはずだ。池のふちや沈んだ木の近くの魚がいそうなところに釣り糸を投げるだろう。トレードもこれとまったく同じで、ブルやベアが疲れ果て、小さな力でトレンドが反転しそうな保ち合いの終わり付近でトレードを仕掛けるのだ」
私のトレーダーズキャンプでウェイスは南部方言でよくこんな教訓話をしたものだ。1週間のトレーダーズキャンプに参加してウェイスからじかに教えを受けることができなくても、今、彼の本のなかでこんな教訓話を聞けるのだから、こんなうれしいことはない。
ウェイスは物静かな人物で、毎日毎日トレードルームで独りで過ごすことが多いが、多くのトレーダーを育ててきた。マーケットについて友人と話をしていると、彼らは「デビッドだったらここにラインを引くだろうね」と口々に言う。彼のチャートの読み方は彼の多くの生徒の脳に叩き込まれているのだ。
ウェイスはおよそ100年前に書かれたリチャード・ワイコフの古典の研究を敷衍して、市場分析の近代的構造を作り上げた。彼の市場分析の基本的要素は、変化する足の長さと増減する出来高だ。彼はこれらのパターンを使って、すべての市場、すべての時間枠における大衆の動きを読み解き、注文を出す。
すべてのトレードは価格チャートと出来高チャートに消えない足跡を残す。ウェイスはこれらのチャートに目を凝らし、チャートが彼に語りかけてくることを読み解く。彼は本書でこれらのチャートが語りかけてくる言葉の読み方を教えてくれる。
価格と出来高を鋭く観察するウェイスを見ていると、医学部にいたときのある教師を思い出す。彼女は内気で耳に少し障害があった。彼女は全体勉強会ではいつも後ろのほうに座っていた。彼女は患者のボディーランゲージに波長を合わせて彼らを鋭く観察する。教授たちが診断で意見が合わないとき、彼らは彼女の意見を求めた。経験豊富で隠れた意図を持たず、ただひたすら患者を観察する人は、物事をより深く見ることができるのだ。
本書を注意深く読むことでダマシのブレイクアウトがいかに重要であるかが分かってくるだろう。ダマシのブレイクアウトのことをウェイスは、スプリング(下方に動いているとき)とか、アップスラスト(上方に動いているとき)と呼ぶ。「スプリングとアップスラストの動きに波動を合わせられるようになれば、すべての時間枠で機能する行動すべきシグナルが見えてくる。スプリングはデイトレーダーにとって短期トレードのひらめきを与えてくれるものであり、長期的なキャピタルゲインを生む素地となるものだ」と彼は言う。
ウェイスが講義でトレード例を示している間、私は教室の後ろのほうに座って聞いていた。今ではダマシのブレイクアウトは、私がトレードするときの重要な判断材料の1つになった。本書では多くのチャートが登場する。その動きを足ごとに追うことで、その足が発するメッセージを読み解くことができるようになり、トレンド転換を予測することができるようになる。
第7章の「吸収」では今のトレンドの強さを測定する方法が解説されている。そのトレンドは「ギリシャの軍隊がトロイの高原を行進する」ように力強く前進しているのか、それとも増加する売りに吸収されながらの前進で、反転が発生するサインなのか。そこでウェイスのチャートを見ると、価格と出来高のパターンから隠れた弱さや強さが見えてくる。
本書は急いで読んではならない。本の効果を十分に享受するためには、1つひとつのメッセージを十分に理解しながら、ゆっくりと読み進めていくことが重要だ。ウェイスの概念を現在のチャートに適用して、それがあなたに語りかけてくるものをじっくり観察して、その意味を読み解くのだ。1つひとつの概念をじっくり理解しながらページを進めていくとよい。ウェイスは何年もの月日を費やして本書を書き上げた。あなたも同じように長い時間をかけて本書を読むことだ。そうすれば本書から得るものは多いはずだ。
本書を楽しもう、そしてトレードを楽しもう!
2013年ニューヨークにて
はじめに
リチャード・ワイコフがウォール街にやってきたのは1888年だった。彼の40年にわたるキャリアについては彼の自叙伝『ウォール・ストリート・ベンチャー・アンド・アドベンチャー(Wall Street Ventures and Adventures)』に詳しく書かれている。彼が観察したビッグプレーヤーの話や彼らが行った相場操作の裏話には興味をそそられるが、何と言っても同書で最も注目すべきところは、トレードのための「鍛えられた判断力」を身につけることの重要性を語った部分だ。彼は1905年当時の自分のことを次のように記述している。
「ウォール街にやって来てかれこれ17年たつ。証券会社の使い走りとしてスタートしてから、事務員、サイレントパートナー、業務執行社員を経て今に至る。これまで多くを見て、学習し、観察してきたが、私の顧客あるいは自分自身のために株式市場でお金を稼ぐ明確なプランや手法はまだ見つけられないでいる」
この時点で、経験を通じて彼には2つのことが分かってきた。1つは、ビッグトレーダーはティッカーテープに現れる株式取引を何時間もかけて分析するということだった。もう1つは、「株式市場の内部の動き」を教えるには学校教育が必要であるということだった。一般大衆はなぜ大物の相場詐欺師に繰り返しだまされるのかを彼は示したかった。
1907年の終わり、ウォール街が恐慌の余波に苦しんでいたとき、ワイコフは教育目的の書物を出版することを決意する。株式市場についての記事を掲載した月刊誌『ティッカー』である。記事の大部分を書いたのはワイコフ自身であり、彼は新しい題材を探して株式市場、債券市場、コモディティ市場のありとあらゆる側面を研究した。彼はメカニカルなトレード手法を統計や読者によって提示されたさまざまな理論に基づいて検証してみた。そして、彼は、チャートは純粋な統計よりももっと良い価格履歴を提供してくれることに気づいた。チャートや株式市場テクニックの研究が進むにつれ、彼はティッカーテープに注目するようになる。「株式の動きが株式を支配している人々の計画や目的を反映していることが分かるようになった。計画の指導者たちが何をしているのか、ティッカーテープから読み解くことができるのではないかと思い始めたんだ」。証券取引所の元フロアトレーダーの指導の下、ワイコフはテープリーディングを真剣に学習し始めた。彼の観察は『ティッカー』でテープリーディングについてのシリーズ記事になり、この記事は読者の間で人気になった。最初のシリーズ記事を基にワイコフは最初の本『ワイコフの相場成功指南』(パンローリング)を書いた。これは1910年にロロ・テープというペンネームで出版された。同書については彼はのちに自叙伝で次のように書いている。(続きを読む)
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