また、日本の有名な大学教授は労働力不足が日本経済の大きな悩みの種になると発言した。どうしてそれが問題になるか。国民が容易に職を見つけ、また容易に賃金の引き上げ交渉ができるようになるという意味ではないのだろうか。また、彼らはインフレを高める手段として金利の引き上げを求めていた。だが、金利の上昇がどうして企業や国民のためになるのだろうか。日本が年金や貯蓄で暮らす人々の幸福を軽視していることは明らかだ。
実のところデフレは良いもので、進歩の兆しであると考えている人はまったく存在しない。日本で起きていることは世界のほかの国々でも起きていることだという事実からいつまで目を背けるのだろうか。
デフレは危険なものであるという信念は日本政府の最高位にある人々にまで浸透している。その結果として、インフレを引き起こそうとする政策を次々と実行し、日銀はゼロ金利政策を推し進め、量的緩和政策に乗り出し、ETFでおよそ20兆円もの日本株を取得し、今も継続している。これは東京市場の時価総額に比べればわずかな金額にすぎないが、日経225という狭い範囲を対象とした指数に連動するETFばかりを買い付けるので、アルゴリズム取引や高頻度取引を行う者たちが日銀による買い付けパターンを解析し把握したので、それが市場の動きを助長することになった。
日本で起きているこのようなデフレは、19世紀後半に起こった生産性が劇的に向上したときと同じで、収入に対して費用の比率が低下するという一般的なトレンドを反映したものであることを理解すれば、今のようなデフレの状況もよく理解できるだろう。この生産性の向上は日本が世界に先駆けて開発したテクノロジーに負うところが大きいのだ。われわれは、今後もこの有意義なデフレの展開が続くものと期待している。(「日本語版に寄せて」からの抜粋)
第1章 序論
第2章 歴史とインフレ
第3章 決定的に重要なインフレ統計
第4章 インフレとは何か
第5章 ハイパーインフレとは何か
第6章 マネーサプライとインフレ
第7章 インフレを測定する
第8章 インフレの管理と操作
第9章 素晴らしきデフレの世界
第10章 結論
注釈
二〇一八年後半、とあるコメンテーターが日本の「デフレモンスター」について言及した。その年の第2四半期のGDP(国内総生産)が二・五%という予想をはるかに上回る四%の成長を示したという事実があるにもかかわらず、である。時を同じくして、日本の有名大学の教授は労働力不足が日本経済の大きな悩みの種になるだろうと発言した。どうしてそれが問題になるのだろうか。国民が容易に職を見つけ、また容易に賃金の引き上げ交渉ができるようになるという意味ではないのだろうか。だが、賃金の上昇が見られないことを嘆き、インフレを引き起こすためには欠かせないと述べるコメンテーターもいた。彼らはまた、インフレを高める手段として金利を引き上げることを求めてもいた。だが、金利の上昇がどうして企業や国民のためになるのだろうか。多くの混乱があることは言うまでもないが、論理的思考を欠き、最も重要なことに日本国民、とりわけ年金や貯蓄で暮らす人々の幸福に重きが置かれていないことは明らかだ。また、実のところデフレは良いもので、進歩の兆しであると考えている者はまったく存在しないようである。実に、日本で起きていることは世界のほかの国々でも起きていることだという事実はいまだ認識されていないのだ。(続きを読む)
だが、いま現在の読者の多くはデフレのほうに関心があるのではないだろうか。一般にデフレについては否定的な意見を持つ識者が多いと思うが、著者は「第9章 素晴らしきデフレの世界」で詳しくこれを論じ、そもそもデフレは現代の生産性の向上やテクノロジーの進化の影響下においては必然的に起こりえるものであること、そしてそれは一般の人々にとって必ずしも悪いものではないことを示唆している。確かに、供給が容易になれば需要をすべて補ったうえで価格はさらに下がるだろう。現に近年においては同じ質の製品やサービスの価格が以前よりも下落し、人々の生活は向上している。 (続きを読む
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