リチャード・デニスとウィリアム・エッグハートのことを詳しく述べる必要は無いと思われるが、歴史上もっとも成功を収めたトレンドフォロワーであり、最も優れたトレードの教育者と言うことが出来よう。
筆者が感銘を受けるのは、この2つを2つながら同時に成し得た、と言う事実である。トレーダーとして活躍する一方、教育を行ったのであり引退後余生に弟子を育てたわけではないのだ。実際、この2つを両立することは殆ど不可能である。たとえば、優れたトレーダーであることも、優れた教育者であることも限りなく困難なことだ。史上高名なトレーダーあるいはアナリストであるエリオットやギャンが優れた教育者であったとは言い難い。また優れた教育者で優れたトレーダーである人を筆者は他に知らない。そういう意味でタートルズとはデニス=エッグハートの極めて優れた技術と情熱が結晶した奇跡のような集団と云うことが出来よう。
無論、このような奇跡が起こせたのは、実はその手法が極めて実践的で相場の本質をついたものであったからに他ならない。本書はそのオリジナル・タートルのひとりであるラッセル・サンズが門外不出のタートルズの奥義を明かしたもので、極めて貴重なものといえる。実は筆者はある関係でタートルズのオリジナル手法を知っているのだが、ラッセル・サンズが完璧にタートルズの(現在の)手法を伝えているか、と言うと「それは違う」と言わざるを得ない。しかし、オリジナル・タートルズの手法はほぼ完全に公開しており、一部誤解に基づくところはあっても本質はさほど変わっていないと云える。
何故タートルズはうまくいくのか。トレンド・フォローであること、建玉と利食い(損切り)の時間枠を分散していること、マーケットを分散していること、そして何よりも卓越した資金管理の技法をもっていること。筆者の考えではこれらの要素に尽きる。そして、この部分に関してはサンズはほぼ完璧にタートルズの手法を公開してしまっている。これでは破門を免れ得るものではない。逆に言えば、これほど安価でタートルズの基本技法を日本語で学べるのは大変ありがたいことといえる。
オリジナルはかなり情けない作りだが、本書はパンローリングが立派な装丁を凝らし座右の一冊と出来るようになっている。正直言って第2部のタートルトークは玉石混淆だが、第一部だけでも優に10倍の価値はあるだろう。あらゆる相場参加者に熟読して欲しい本だ。