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フィスコ投資ニュース

配信日時: 2026/07/15 10:37, 提供元: フィスコ

中国の民族団結法と、国外に広がる法的威圧の影【中国問題グローバル研究所】

*10:37JST 中国の民族団結法と、国外に広がる法的威圧の影【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している陳建甫博士の考察をお届けする。


「民族統治」から「アイデンティティの強制」へ
2026年7月1日に中国の民族団結進歩促進法(略称:民族団結法)が施行されるとすぐに、台湾ではある疑問が浮上した。それは、同法がまたも台湾を標的とした法律なのではないかという問いだ。この法律の構造から判断すると、答えは「否」だ。同法の核心は台湾ではない。その本質は、中国国内の民族統治、少数民族地域の統合、そして中国政府が重視する姿勢を強めている「中華民族共同体の意識」にある。第一条では、同法の目的を民族団結と進歩の促進、および中華民族共同体意識の強化と定めている。さらに第六条では、この意識が民族団結の基盤であると明記し、民族の団結を損なう行為や民族の分裂を招く行為を禁止している。こうした記述は台湾だけに向けられているというよりも、まずは新疆、チベット、内モンゴルなど、中国国内の民族統治対象地域を念頭に置いたものだ。

とはいえ、台湾が同法の政治的構想から除外されているわけではない。第二十一条では、海峡両岸の経済・文化交流、台湾同胞の中華民族に対する帰属意識・アイデンティティ・誇りの強化、そして両岸の人々が「同じ中華民族に属し」、「皆が中国人」であるとの認識が明示されている。したがって、台湾は同法の主たる対象ではないとはいえ、国家アイデンティティの構築という、中国政府のさらに大きな構想の中に組み込まれている。台湾社会がこの法律を「台湾法」と単純化してしまえば、その内容を深読みしすぎたり、中国政府による論理の枠組みを無意識に受け入れたりしてしまう恐れがある。しかし、台湾が同法を自分には無関係なものとして一蹴すれば、台湾政策、国家アイデンティティのナラティブ、法的責任を結びつけようとしている中国政府の試みを過小評価してしまう恐れがある。


反国家分裂法とは異なる法的手段
この新法は2005年の反国家分裂法とは明らかに異なる。反国家分裂法は台湾を直接標的とした主権抑止法だ。その目的は、「台湾独立」を掲げる分裂勢力による国家分裂の試みに対抗し、これを阻止することにある。第八条では、台湾が実際に中国から分離した場合や、台湾の分離を伴う重大な事態が発生した場合、あるいは平和的統一の可能性が完全に失われた場合など、一定の条件下で中国政府は「非平和的手段その他の必要な措置」を講じることができると規定している。その役割は、レッドラインを引き、軍事的抑止力を示し、中国政府が台湾に対して強制措置を講じることができる条件を法制化することにある。

民族団結法の論理は異なる。この法律は、軍事的なレッドラインや戦争の条件、あるいは主権の危機に立脚しているわけではない。アイデンティティ、教育、メディア、サイバー空間、家庭教育、香港、マカオ、台湾、海外の華人コミュニティ、そして法的責任を、単一の統治の枠組みに集約したものだ。反国家分裂法が台湾の独立の動きに警告を発するものであるとしたら、民族団結法は広く中国内外のコミュニティに対し、中国政府による中華民族の定義を受け入れなければ、それだけで政治犯になり得るというメッセージを伝えるものだ。これは、「反国家分裂」から「アイデンティティの強制」への転換を意味する。


第六十三条と域外適用の問題
この法律で最も懸念されるのは第六十三条で、法的責任の域外適用を規定している。中華人民共和国領域外の組織や個人が、民族の団結と進歩を損なうか、民族の分裂を招くことで中国に敵対する行動を取ったとみなされた場合、法的責任を問われる可能性があるとしている。問題は、中国が同法を国外で正式に執行できるのかという点だけではない。より深刻な懸念は、この規定によって中国国内の民族統治に使われている政治的言い回しが国外にも適用される点にある。「民族の団結と進歩を損なう」や「民族の分裂を招く」といった曖昧な概念は、越境圧力の手段になりかねない。

このような規定は萎縮効果を生み出す恐れがある。学者、ジャーナリスト、非政府組織、宗教団体、海外の華人団体、ウイグルやチベットの組織、香港の活動家、台湾の市民はいずれも、研究、公の場での演説、国際社会への働きかけ、集団活動、あるいはソーシャルメディアへの投稿を理由に、民族の団結を損なう勢力や民族の分裂を招く勢力というレッテルを貼られる恐れがある。中国の法律には台湾に対する正当な管轄権がなく、外国の裁判所もこうした法規定を認めないかもしれない。しかし、現実のリスクは往々にして法廷の外で生じる。例えば、ビザの発給拒否、入国制限、香港やマカオ経由の乗り継ぎ、第三国における警察の協力、ネット上での嫌がらせ、中国国内にいる親族への圧力などだ。


亡命者のコミュニティと受け入れ国への圧力
この法律の波及効果がまず現れるのは台湾ではなく、亡命者のコミュニティの受け入れ・拘束・監視を行っていたり、亡命の中継地になっていたりする中国周辺の国々かもしれない。中国から逃れてきたウイグル人やチベット人などは、以前からネパール、インド、タイ、マレーシア、トルコ、中央アジア諸国を経由するルートで亡命を求めたり、第三国へ移動したり、国際的支援ネットワークを構築したりしている。これらのコミュニティは、民族自治、宗教の自由、人権、民族自決権に関する主張を展開することが多い。中国政府はかねてよりこうした主張を政治的に敏感な問題として扱ってきた。

今回の新たな法律により、中国政府は亡命者による政治的主張、宗教活動、文化の保護、公の抗議活動、あるいは国際的なロビー活動を、民族の団結と進歩を損なう行為や民族の分裂を招く行為であると主張しやすくなる可能性がある。したがって、近隣諸国はより大きな外交・安全保障上の圧力に直面するかもしれない。ウイグル人やチベット人の亡命希望者を受け入れるのか、公の集会を許可するのか、外国の外交官との面会を認めるのか、国外追放という中国からの求めに抵抗するのかといった決定は、中国政府によって民族の団結や反国家分裂の問題に置き換えられる可能性がある。

タイ政府がウイグル人を強制送還したことは、こうした圧力がすでに現実のものであることを示している。受け入れ国が国際的な人権義務、中国の外交圧力、経済的利益、国内の安全保障上の判断の板挟みになった場合、亡命者コミュニティは最も脆弱な立場に置かれがちだ。民族団結法がすぐに国外で注目を集める訴訟につながるとは限らない。中国政府はむしろ、ビザの発給拒否、外交的抗議、警察との協力、国外退去要請、海外の団体への圧力、ネット上での嫌がらせ、中国国内にいる親族への圧力などを通じて、越境統治を展開する可能性がある。法という枠組みにしたことで、中国政府はかつては政治的圧力であったものを国内法の執行に見せることができるのだ。


日本と台湾は座視できない
この法律の影響が及ぶのは、台湾、米国、欧州にとどまらない。日本も注目すべき大きな理由がある。日本の大学、報道機関、シンクタンク、人権団体、国会議員は、台湾、香港、新疆、チベット、宗教の自由、中国の強圧的外交について頻繁に議論している。中国が国外での発言や主張を民族の団結に対する脅威であると法律で規定すれば、その圧力は学術交流、亡命者コミュニティ、市民社会にも広がる可能性がある。真の危険は、中国の法律が日本の法律に取って代わることではない。もっと微妙な問題として、渡航リスクの増大、制度的な自己検閲、学生や研究者への中国からの圧力が挙げられるほか、メディアや研究機関が中国へのアクセス、ビザ、資金調達、個人の安全に対して慎重姿勢を強めることなどがある。

台湾は両極端にならないように対応すべきだ。台湾に特化した新たな法律とみなして過度に警戒すべきではないが、台湾を狙い撃ちしているわけではないという理由だけで同法を軽視するべきでもない。この法律をより正確に読み解くならば、法律戦、アイデンティティ政治、越境的威圧という、中国が拡大させている手段の一環とみなすことができる。同法では台湾にも言及しているが、その政治的論理は台湾にとどまらない。台湾政府は、中国政府による法的責任の域外適用を拒否すべきだ。さらには、リスク警告、関連事案の連絡窓口、省庁間の連携、領事支援、民主主義のパートナーとの協力といった取り組みも求められる。台湾の市民、学者、ジャーナリスト、NGO職員、宗教団体の構成員、海外コミュニティのリーダーは、中国、香港、マカオ、あるいは中国政府と緊密な安全保障協力関係にある第三国に渡航する際、特に警戒すべきだ。過去の公的発言、ソーシャルメディア上の記録、国際的な提言活動は、管轄地域によっては新たなリスクをもたらす可能性がある。


真の試金石:法律がどのように運用されるか
この法律の重要性は条文そのものだけでなく、その運用方法にもある。単なる宣言のままであれば、政治的影響は限定的だろう。もし中国政府が、海外の個人や組織が関与する事案で第六十三条を引き合いに出し、制裁、捜査、ビザ発給停止、国外退去要請、香港やマカオへの入国リスク、あるいは中国国内にいる親族への圧力などを正当化する手段として用いるようになれば、この法律は国内の民族統治にとどまらず、国境を越えた法的威圧に拡大することになる。

今後いくつかの動向に細心の注意を払う必要がある。香港やマカオが高リスク地域となるかどうか、近隣諸国が中国の圧力下でウイグル、チベット、香港、台湾に関連する活動を制限するかどうか、海外の華人団体、大学、報道で自己検閲が強化されるかどうか、そして日本、台湾、米国、欧州連合(EU)、カナダ、オーストラリアなどの民主主義陣営が、中国による国内法の域外適用に対して協調して対応できるかどうかだ。これは台湾法ではない。その範囲はより広く、いくつかの点ではより懸念すべきものだ。中国政府は、国内の民族統治、国家統一のナラティブ、海外コミュニティの管理、域外適用される法律を結びつけ、単一の枠組みにしようとしている。台湾は慌てなくてもよい。一方で日本や他の民主主義国は楽観視してはならない。真の懸念は、中国が言論、アイデンティティ、権利擁護の法的・政治的境界を、自国の領域外に拡大しようとしている点にある。


中国、「民族団結進歩促進法」を施行へ(写真:アフロ)

(※1)https://grici.or.jp/






《CS》

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