今ではすっかり定着した感のある、継続企業の前提に関する注記(GC注記)。この注記の記載基準が2009年3月期決算より改正(緩和)されました。
GC注記とはなにか、誤解をおそれず一言でいってしまえば、「経営破たんするリスクが他の企業より高い」ことを示しているものです。
従来の日本のGC注記の記載基準は、事業の継続性に疑義が生じる事象、たとえば継続的な営業損失やマイナスの営業キャッシュ・フローの発生、財務制限条項(コベナンツ)への抵触、債務返済の困難性といった事象が存在していれば、それだけで注記の対象となっていました。
今回の改正では、欧米の基準と合わせるため、事業の継続性に疑義が生じる事象が存在していても、企業の対応策などにより、改善の見込みがあると判断されれば注記の対象から外れることになっています。
これにより、従来の基準であればGC注記の記載対象となっていたであろう企業が、注記記載対象から外れるというケースがすでに何十件と起こっています。
ただ、「企業の対応策などにより改善の見込みがあるかどうか」を判断する客観的な方法があるわけではなく、非常にあいまいな形で注記の要否が決定されているという印象はぬぐえません。
たとえば、平成21年3月期にGC注記の記載対象から外れたある企業は、平成21年3月期決算短信の「経営方針および対処すべき課題」において、以下のような記述がなされています。
「平成21年3月期においては、営業収入の著しい減少や、損益および営業キャッシュ・フローの大幅な赤字の結果、財務状態が悪化し、当社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせる状況が存在していますが、このような状況に対処するため、当社は以上のとおり、抜本的な構造改革に取り組むことで、この問題は回避できるものと判断しています」
そして、具体的な対策として事業のリストラを進めることが挙げられています。それに加え、リストラに必要な資金の調達手段は現在検討中であること、借入金について財務制限条項に抵触しているものの金融機関からの支援を取り付けていることなどが記載されています。
しかし、GC注記の記載対象から外れる前提としては、「企業の対応策により改善の見込みがあるかどうか」という点であり、あくまでも現時点での見込みにすぎません。企業の対策が計画通りに進むかどうかの保証はありません。したがって、GC注記が外れたからといって一安心、というわけではないのです。
従来であれば、GC注記の有無を判断材料として、例えば破たんリスクも承知で将来の復活による株価の大きな上昇に賭けるのでれば注記ありの企業に積極的に投資し、破たんリスクはできるだけ避けたいというのであれば注記ありの企業は投資対象から外す、という投資戦略が可能でした。
今後は、注記の記載基準が改正されたことにより、私たち個人投資家は、GC注記という形では見ることのできない企業の破たんリスクを見極めるため、今まで以上に決算短信や有価証券報告書の中身をよく見る必要がでてきました。なぜなら、事業の継続性に疑義が生じる事象が存在しているにもかかわらずGC注記が不要と判断された企業であっても、決算短信や有価証券報告書にはその旨が記載されているからです。