トレーダーは自己のトレード手法を盲信せず、常に改善を考えます。しかしトレードへの価値観を転換する程のインパクトを受ける機会は数少ないもの。『まぐれ』はそのインパクトを持つ本の1冊です。私たちが生まれ、学校教育を通じて教えられてきた【決定論的世界観】から、それとは真逆の【不確実性を前提とした非決定論的世界観】への転換を促します。そのインパクトが及ぼす影響はトレード手法に限りません。
人は、日常生活やトレードにおいて今後起こりそうな出来事について予想・予測を行います。また既に起こった出来事について、後から理由や原因を考えます。それは【特定の原因→特定の結果】という【決定論的世界観】に基づく思考回路です。私たちは人間の進化や自然淘汰の過程でそのような思考回路を身につけました。
ところが、20世紀の自然科学や自然哲学の発展が導いた結論は、出来事のうち因果関係が支配している部分や、予め予想できる範囲は少なく、起こったことには運・偶然・不確実性が影響する部分が大きいというものでした【非決定論的世界観】。ましてや金融市場においてはトレードに運の要素がつきまとうことはトレーダーにとっては常識であるとも言えます。
本書は、この【非決定論的世界観】と『不確実性』の捉え方を金融と社会の事例を用いて定性的に伝えます。確率論や統計学はもはやクウォンツ(数量解析を用いたトレーダー)を目指す方の必修科目ですが、これらを学ぶだけでは気がつかない生臭い部分が描かれます。それは、著者のニコラス・ナシーム・タレブ氏はかつてオプショントレーダーであり、現在ヘッジファンドにも参画しているトレーダーであるためでしょう。
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『まぐれ』は、不確実性の波を乗り越え、マーケットでサバイバルしなければならない私のバックボーンになっています。これまで3回通読しましたが、読む度に発見がある本です。