2024.9.10
例年、9月〜12月はIPOのシーズンです。 今回のコラムからIPOについてご紹介します。
前回のコラムではIPO投資から「セカンダリー」について、初値が決まる時の注意点、ストック・オプションの注意点、業績に注目した方法などをご紹介しました。IPOのセカンダリーではとても大事な事をご紹介しますので、是非、参考になさってください。
今回は「有力なIPOを見つけるポイント」についてご紹介します。
さて、今年は8月末までに47銘柄のIPOが新規上場しました。この47銘柄が上場した取引所の内訳を見てみると、東証プライム市場へ上場した銘柄はありませんが、東証スタンダード市場が7銘柄(14.8%)、東証グロース市場が39銘柄(82.9%)、福証Qボード市場が1銘柄(2.1%)となりました。
また、月ごとに上場したIPOの銘柄数は下記の通りとなります。
例年、IPOは3月、6月、9月、12月に集中する傾向ですが、各月の決算企業が多い関係で増加します。また、例年、9月〜12月は年末の駆け込みで上場する企業がありますので、年後半のIPOは増加する事が多いです。
今年のIPOは2月から8月末まで47銘柄上場していますが、プライマリーマーケットの結果(公開価格に対して初値のパフォーマンス)を見ると47銘柄中40勝5敗2分という結果となっています。勝率は85%ありますが7銘柄は低調な結果に終わっていますので玉石混交といった状況です。
IPO投資を行っている多くの投資家はIPOのブックビルディングに参加をして、当選する事ができたら初値で売却して利益をあげることを目的としている方が多いと思いますが、IPOの魅力は上場後も企業価値が評価されていき、初値を形成してからも株価が値上がりすることであると私は考えます。
そこで、今回は有力なIPOを見つけるポイントについて事例をご紹介しながら、取り上げたいと思います。是非、今後のIPO投資にお役立てください。
2024年3月は15銘柄のIPOが上場!
今年の3月は月間では最も多い15銘柄が新規上場しましたが、初値のパフォーマンスが最も高かったのはジンジブ(142A)でした。同社は公開価格1,750円に対して初値は3,980円で決まっていますので、公開価格比127.4%上場しました。仮に100株当選していた場合、初値で売却したら+223,000円の利益になります。
この15銘柄の中で私が最も注目したのが、トライアルホールディングス(141A)でした。 下記では同社を注目したポイントについて記載いたします。
同社は九州地方を地盤としたディスカウントストアを展開していますが、主な事業は小売、物流、金融・決済、リテールテックなど、各事業を中心とした企業グループの企画・管理・運営です。
下記は上場時の同社の基本的な概要になります。
社名 | トライアルホールディングス | |
証券コード | 141A | |
上場市場 | 東証グロース | |
上場日 | 2024年3月21日 | |
事業内容 | 小売、物流、金融・決済、リテールテックなど、 各事業を中心とした企業グループの企画・管理・運営(純粋持株会社) | |
公募売り出し数 | 22,853,100株(売出の比率7.2% ) | |
公開価格 | 1,700円 | |
市場吸収額 | 446億円 | |
時価総額 | 2021億円 | |
主幹事 | 大和・三菱 | |
需給面のリスク | 上場時なし | |
業績 | 今期増収増益 | |
配当 | 15円 |
同社は東証グロース市場へ上場しましたが、公募売り出し数は22,853,100株でした。公開価格が1,700円ですので、市場吸収額は446億円、時価総額は2021億円です。東証グロース市場の目安では市場吸収額はかなりの荷もたれ感になります。
ただ、同社は国内の投資家だけではなく海外の投資家にも販売されましたので、公募売り出し数22,853,100株のうち、国内投資家への販売数が5,431,400株、海外投資家への販売数が15,768,600株でした。そのため、実質、国内販売のみにおける市場吸収額は92.3億円になります。上場承認が発表された時点では公募売り出し数が22,853,100株ありますので、比較的、獲得しやすいイメージがありますが、実際は海外投資家への販売が全体の68.9%でした。
同社にはVC(ベンチャーキャピタル)の保有残にSBIVenturesTwo株式会社の400,000株がありますが、保有株式にはロックアップが設定されているので、上場時に売却するリスクはありません。(ロックアップ期間が過ぎたら売却する可能性がありますので注意が必要です。)
同社は前期(2023年6月期)の売上高が6531億円、経常利益143億円ですが、今期(2024年6月期)の業績予想は売上高が7110億円、経常利益が190億円なので、前年同期比で増収増益予想となっています。また、今期は配当が15円を予定しています。
この業績予想を確認した上で大事な事は、上場日が3月21日なので、同社が6月決算企業であるということは上場後、約2か月後には第3四半期の決算が発表されます。また、8月には本決算が発表される予定ですので私の場合は各IPOについて数期の業績推移を確認した上で来期の業績を想定しています。
同社は1974年4月に前身の「あさひ屋」として創業しました。そして、1992年にディスカウントストアしてトライアル1号店を出店しましたが、その後、出店が進んでいき全国出店と既存店が着実に成長していき、これまで23期連続連続増収しています。この手の小売業は経済市況の影響を受けるケースや既存店舗が安定して集客できなければ連続増収はなかなか行えません。
また、事業年度では23期連続増収ですが、月次既存店売上高では2021年6月から31カ月連続で前年同期比プラスで推移しています。この間、新型コロナの感染拡大の影響が各商業施設の集客に影響を与えましたが、同社は月次ベースでも順調に31カ月連続で前年同期比プラスで推移しています。
なお、同社は新規上場した後に毎月、月次売上高速報の適時開示を発表しています。この月次売上高では上場後も既存店、全店の売上高が前年同期比プラスであることが続いている事がわかります。
同社は上場時、公開価格1,700円に対して初値は2,215円(+30.3%)で決まりました。その後は短期間で3,000円まで値上がりした後は2,000円半ばで推移しましたが、8月下旬には上場来高値を更新しています。
同社のような大型IPOで事業内容が小売業の場合はIPOのプライマリーマーケットでは人気化しないことがありますが、私は前述した事や独自に調査・分析をした事を受けて、同社のブックビルに積極的に参加してIPOの配分を複数取れましたし、上場日はセカンダリーで買い付けました。
次回のコラムでは「スピンオフのIPO」についてお伝えします。
証券会社在籍時に営業、ディーラー、インターネット株式投資部門の立ち上げを行い、 証券会社でのIPO業務や企業分析の経験を活かし、2008年に投資手法を確立。 その後は毎年、投資を実践し、自身でも成果をあげ、これまで述べ50,000人の投資家に自身の投資手法を伝授。 現在は合同会社Willowの代表として活動中。 著書に『安定的に利益を出せる 先回りイベント株投資』、『いつでも、何度でも稼げる! IPOセカンダリー株投資』(すばる舎)。 証券外務員資格一種保有。
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