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新版と旧版の「賢明なる投資家」の違いは、上巻の書評にて紹介しているのでそちらも併せてご覧下さい。 『新 賢明なる投資家 (下)』は旧版『賢明なる投資家』の11章から20章の各章ごとの注釈と、おまけとして何点かの補遺にて構成されています。かの有名なバフェットの名エッセイ「グレアム・ドッド村のスーパー投資家たち」も補遺に置かれています。バリュー投資・長期投資を目指す方はぜひとも、この名エッセイに目を通しておきたいところです。
さて、『新 賢明なる投資家 (下)』では、銘柄選択に当たっての基準が、「第14章 防衛的な投資家の銘柄選択」に7つ、挙げられています。この7つの基準をツヴイクは注釈にて、なぜそうしなければならないかを、説得力あふれる悲惨な例を挙げて説明しています。今後も銘柄分析において通用する基本的な基準ですので、ノートにピックアップする価値があります。時代が変化しても、この章で挙げられている基準はそうそう、色あせないでしょう。
というのも、「賢明なる投資家」の初版は1949年です。今、読んでもその基準に違和感がないのですから、これからも通用していくでしょう。ちなみにツヴイクの注釈では、この基準を離れるとどうなるか、そこかしこで暗示していると思います。
全体を通して、ツヴイクの注釈にはしばしばゾッとさせられます。1株あたりの利益の恣意性(それが経営者の報酬に連動するとどのような結果になるか)、株式分割や企業買収の実態、会計による強盗など、このような現実が存在し、大金がつぎ込まれた事実に唖然とします。しかし、それは明日のわが身であるかもしれないのです。 また、ツヴイクの注釈は会計の欺瞞(特にプロフォーマ利益)・経営者の欺瞞・ストックオプション&自社株買いの欺瞞等々、作為に満ちた株式投資の世界を余すところなく垣間見せるので、こんな騙し方もあるのかとハタと膝を打ちます。ジャーナリストの本領発揮です。
さて、下巻の最大の読みどころは、第17章「特別な四社の例」と第18章の「八組の企業比較」でしょう。このふたつの章と注釈を読めば、市場の熱狂に包み込まれた者はどんな愚かなことでも平然とおこなうことがわかります。時代が変わろうとも同じことが起きること、歴史は繰返すことが実感できるでしょう。 グレアムは1960年代〜1970年代の愚かしい投機の姿を、ツヴイクは2000年初期のITバブルに踊った市場の姿を白日の下にさらけ出しています。時を越えて同じ事態に陥ったことをわれわれは胸に焼き付けておきましょう。次はうまくやればいいのです。
さて、グレアムは堅実な投資の極意として「安全域」を提唱した投資家です。ITバブルにまみれた市場を見てきたツヴイクは、化石になっていた「安全域」はどのように見えるのでしょうか? ツヴイクは、安全域が掲載されている第20章「投資の中心的概念−安全域」の注釈のとりまとめとして次のような一節を挙げています。
「リスクとは株式にあるのではなく、われわれ自身にある」
おカネが渦を巻いて株価が上昇していく熱狂的な市場での、われわれの理性の脆さを忌憚なく表現しています。そう、わたしたちのアタマは脆いのです。いくら銘柄分析が正しくてもそれを握りつぶしてしまう威力がある、とつくづく思い知らされたのでした。
旧版ではアンダーラインもマーカーも付けていなかったのに、本書で目からウロコが落ちた箇所があります。最後に、この名文を紹介することで本書の読後感を伝えたいと思います。
「ある普通株が優れた投資対象だとすれば、それは優れた投機の対象にもなる」 ――補遺「株式の新たなる投機性」より
「賢明な投資」とは、銘柄分析だけでは不十分であり、われわれは賢明な態度で市場に臨まねばならないという普遍の教訓を、この約30文字の文章が鮮やかに示唆しているのではないでしょうか?
(くらげ 20代 会社経営 「初心者投資」管理人)
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